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福岡高等裁判所 昭和36年(う)941号 判決

控訴人 被告人

山隈末喜 外四名

主文

原判決を破棄する。

被告人山隈末喜を罰金五〇〇〇円に、被告人藪木森、同北見健三、同野見山稔、同山本喜一を各罰金三〇〇〇円に処する。

右罰金を完納し得ないときは、金二五〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

(訴訟費用の負担部分略)

理由

本件各控訴趣意は、記録に編綴の弁護人中川宗雄、同田中実、同身深正男(以上被告人山隈末喜、同藪木森関係)、から提出の各控訴趣意書(弁護人田中実提出の控訴趣意書一部訂正申立書共)並びに弁護人稲沢智多夫、同真鍋秀海(以上被告人北見健三、同野見山稔同山本喜一関係)及び被告人北見健三、同野見山稔、同山本喜一各自提出の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。中川弁護人の控訴趣意(一)(二)、田中弁護人の控訴趣意第一、(A)総論について。

原判決挙示の各証拠に、原審で取調べた証拠殊に被告人藪木森の検察官、司法警察員に対する各供述調書を参酌して考察すれば次の各事実が認められる。

(一)三井鉱山株式会社三池鉱業所の企業合理化に基く同炭鉱労働組合員(以下同組合を単に旧労組と略称する)の指名解雇に対し旧労組はこれに反対を表明して争議中、昭和三五年一月二五日右会社が同組合に対して作業所閉鎖を宣言するや、同組合は無期限同盟罷業に突入し熾烈な斗争を展開していたところ、予てより同組合にあつてその階級斗争至上主義に基く強力な斗争方針殊に組合員に対する厳しい統制、争議における徹底した実力主義に批判的であつた組合員達は、石炭産業の現実に立却し且つ民主的な組合運動推進のために組織内にあつてその是正を計ろうと企て、同年三月一五日三池炭鉱労働組合刷新同盟を作つたが、組合執行部の猛烈な反撃を受け同月一七日右同盟決起大会を三池炭鉱新労働組合結成大会に切替え同志約三〇〇〇名(残存組合員約九〇〇〇名)を以て新労働組合(以下単に新労組と略称する)を結成したが、新労組員は旧労組からの生活資金の貸付を断わられて自活の道を構じなければならない状態におかれ、労働者としての生活権を擁護するためと石炭産業のおかれた世界経済情勢の検討よりして、会社の生産再開、企業再建に協力する立場から会社との間に協定を結び、同月二三日会社は新労組に対し作業所閉鎖を解除し同月二五日と二六日の両日行われた会社、新労組、同会社職員組合の各代表による団体交渉の結果、会社の生産再開について意見の一致を見、同月二八日午前六時半を期して新労組員を同会社三川鉱に入構させて就労させる計画が決定されるにいつた。

(二)右計画に基いて同会社は新労組三川支部員約五〇〇名に就業の業務命令を発し、同支部では約五〇〇名の就労隊を編成しこれを第二隊として三川鉱仮東門より入構させるべく、その前後に約五〇〇名宛よりなる第一隊、第三隊を配置し第一隊は同鉱表門、第三隊は同鉱北門附近にいたつて各門附近に配置された旧労組のピケ隊を牽制して就労隊の入構を側面より援け、職員組合は就労隊の入構に際して同鉱構内よりこれを支援することとし、なお右就労隊には組合本部から派遣された約三〇名の青壮年を以て編成された青年行動隊を先行させて就労隊の入構を援護させることとして同月二八日午前六時頃大牟田市諏訪神社前の道路上に集結した上、同三〇分頃第一、第二、第三隊の順序で出発し途中第三隊は仮東門より北方にある諏訪橋南詰より右折し同鉱北門に向い、第一隊は仮東門前を通過して表門に向い、これと二、三米の間隔をおいて続いた第二隊の就労隊先頭は仮東門前の巾員約一三米半の道路を隔てたリズムミシン大牟田営業所前にいたつて一旦停止したのである。

(三)一方、三川鉱仮東門前にはつとに新労組の就労計画を察知していた旧労組員約一八〇名がピケ隊を組織して待機し、同門より北方の越山菓子店前稍南寄りの道路上に略々東西の方向に一個、これに接続し南北方向に一個の木製バリケードと仮東門より南方にある金子建材店資材置場より稍北寄りの道路上に略々東西方向に一個の木製バリケードを配置し、右各バリケードを両翼としてその間に五、六列の横隊に並びその最前列にある者は長さ約一間の太い青竹を横にして四、五名宛握持してスクラムを組み後列の者も竹や棒を持つている者があつて就労隊の入構を絶対阻止する態勢を整えていた。

(四)青年行動隊を先頭に仮東門前に到着してリズムミシン大牟田営業所前において一旦停止した就労隊は仮東門の方に向直つてピケ隊と対峙したが、素早く先頭の青年行動隊員がピケ隊中央より稍南寄りの隊員前面に迫りいきなり最前列のピケ隊員の握持していた青竹を握り「開けろ」と言いながらこれを引張つて押合となつたところ、ピケ隊員の後列から竹棒などで打ちかかる者があつたため青年行動隊員と就労隊員の一部は一旦後退しかねて用意していた洋胡椒の入つた紙袋(目潰し)二、三十個をピケ隊目がけて投つけて再び一斉にピケ隊前面に押寄せ、ピケ隊員が竹、棒等で打かかるや青年行動隊員等の中にも隠し持つていた二尺位の棒を振つて応戦し或は相手の得物を奪つて叩きピケ隊から投られた木片燃え残りの薪、石油罐等を投返するものがあり、かくて双方入交つて乱斗状態を現出したが、この混乱に乗じ就労隊の大部分は漸次ピケ隊の南側方面に移動し金子建材店資材置場入口及びその南側の消防自動車格納庫南側の柵を乗越えて三川鉱構内に入り、同構内に待機中の職員組合員より編成された誘導班員に誘導されて同鉱繰込場に逐次入つて行つたのであつて、その間構内の職員組合員からなる突破応援班員は就労隊が仮東門前附近にいたるや同門の横木や閂を外して開門作業に従事し、同門の開門を就労隊に知らせたり鉤付ロープを就労隊に投与し、就労隊が入構を始めるやピケ隊より石木片等が投込まれ、就労隊員や職員組合員もピケ隊めがけて石、石炭殻、木片等を投下する等の事態が生じたのである。

原判決は措辞些か適切を欠くところがあるけれども挙示の証拠と対照すれば畢竟右と同趣旨なることが窺われ、原判決に所論の如き事実誤認は存しない。論旨は理由がない。

中川弁護人の控訴趣意(三)、田中弁護人の控訴趣意第一、(B)各論について。

よつて記録を精査するに原判決挙示の各証拠を綜合すれば次の事実が認められる。

新労組としてはその結成目的である組合員の生活権を擁護するには賃金の保証を得るため就労意思を表示する必要があり、旧労組が就労妨害のピケを張れば会社においてこれを排除すべきものと思惟していたところ、旧労組の基本的斗争方針並びに本件以前に発生した数々の暴力事件に徴し、また三川鉱周辺のピケ隊の装備状況からして新労組が実力を以てピケ隊を突破しようとすれば流血の惨を招くことが予測されたため、新労組は必ずしも自らの手により実力を以てピケを排除して飽くまで入構することを企図せず、就労に際し流血の惨事が起ることを極力避ける方針を採り、前示のように第一隊、第三隊によつて他からピケ隊を応援に来るのを阻止し、青年行動隊員の援護の下に入構を試みれば、若干の揉み合、押し合いはあるとしても入構は必ずしも不可能ではないと判断し、比較的ピケの手薄な目抜通りの仮東門から白昼公然と衆人環視の中で入構することとし、工具類の携帯を禁止し棍棒等を所持する者のないよう予め警告していたのである。

本件就労隊の隊長として第二隊を指揮した被告人山隈もまた新労組の前示方針を体し暴力に訴えてまでピケ隊を排除して入構就労する意図を有せず出発に際しては隊員の服装検査を実施し目についた棒等を取りあげたが、隊員が隠し持つていた短い棒や目潰しには気づかなかつたのである。かくて同被告人引率の下に青年行動隊を先頭にして第二隊が仮東門前道路上のピケ隊前面に到着した直後、ピケ隊と青年行動隊や就労隊との間に前段(四)説示の如き乱斗を生じ双方列を乱して混乱状態に陥つた最中、同被告人はピケ隊員からバンコ板を投付けられたため立腹の余り「やるならやつてみろ」と申向けこれを拾つて附近にいた是沢市平外数名のピケ隊員めがけて投返したものである。尤も、被告人山隈は青年行動隊及び就労隊の隊長としてこれを指揮引率したものであり、また同被告人がバンコ板を投返した際仮東門前道路上ではあちこちにおいて右隊員とピケ隊員との間に乱斗を生じていたけれども、同被告人が引率して来た右隊員は既に隊列を乱して同被告人の指揮統制の及ばぬ程の混乱状態に陥つており、右隊員達のピケ隊に対する目潰しの投擲、竹、棒等による殴打もまた同被告人の意図するところでなかつたのみならず、同被告人かバンコ板を投返したのはピケ隊から投つけられて咄嗟に生じた憤激に基くものである等の事実に徴すれば、同被告人の右所為が青年行動隊員等と互に犯意を相通じこれと共同してしたものとも、また同隊員等多衆の威力を示してなしたものとは到底認め難く、単純暴行の域にとどまるものといわねばならない。

また、被告人藪木森は右就労隊に編入されて仮東門前にいたつたのであるが、同門前において前叙の如くピケ隊と青年行動隊就労隊との間に乱斗を生じ就労隊員が三川鉱構内に入構した際、約一〇〇名の就労隊員に続いて消防自動車格納庫南側の柵を乗越えて構内に入り守衛詰所裏附近よりピケ隊と青年行動隊や就労隊の乱斗を見て興奮し、塀際から道路上の高野市次外数名のピケ隊員めがけて硬石や湯呑茶碗大の石炭殻を二回投下したものである。尤も、その頃同じく柵を越えて入構した就労隊員が繰込場に赴く際石炭殻等を掬つて道路上のピケ隊に投下している者のあつたことは否み得ないが、これはピケ隊員に対する忿懣と入構の興奮から咄嗟に思い思いにしたもので、同被告人がこれらの者と互に犯意を相通じ共同して硬石等を投下したことを認むべき確証は存しないから、同被告人の右所為は単純暴行を以て論ずるのが相当である。

叙上説示のとおり被告人山隈、同藪木の所為はいずれも単純暴行として処断すべきに拘らず、原審が数人と共同しまたは多衆の威力を示して暴行したものと認定したのは事実を誤認したものでこの誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

中川弁護人の控訴趣意(四)、田中弁護人の控訴趣意第二及び身深弁護人の控訴趣意について。

しかし、前段説示により明らかなように三池炭鉱新労働組合は三池炭鉱労働組合が三井鉱山株式会社三池鉱業所と争議斗争中、これより分裂した一部組合員によつて結成されたものではあるが、その結成の経緯が冒頭(一)説示のとおりであることと会社との団体交渉により作業所閉鎖の解除を受け生産再開協定の成立を経て三川支部新労組員五〇〇名に対する会社の業務年令が発せられたことにより、新労組はいわゆる就業権を有するにいたつたものと解するのが相当である。

ところで、新労組の就業権と旧労組の争議権とは本来対等の関係にあるものと見るべきであるから、旧労組は争議権の当然の行使としてピケを以て新労組員の就業を中止するよう要求し得べきこと勿論であるが、それはあくまで平和的説得の範囲にとどまるべきであり、これらの者に対して暴行、脅迫、威力を用いて就業を中止させることは一般に違法と解すべきである。従つて旧労組員が争議中分裂して結成された新労組員の就業を中止させるため三川鉱仮東門前面において単にスクラムを組んでピケを張ること自体は毫も違法ということはできないけれども、前段説示のとおり旧労組員約一八〇名は新労組員の就業を絶対阻止する意図の下にその両翼を木製バリケードで固め五列位の重厚な人垣を作り最前列の者はいずれも長さ約一間の太い青竹(これは混乱が起れば一瞬にして凶器と化するものである)を横にして四、五人で握持し後列の者の中には棒や竹を持つている者もあつた程であるから、かかるピケは不法に威力を示すものであり、且つ新労組員の入構を実力を以て阻止しようとしたのであるから、その適法性の限界を免脱したものと断ぜざるを得ない。そうだとすれば、新労組員の就労権は旧労組員の違法なピケにより急迫不正の侵害に晒されたものといい得ること所論のとおりである。しかし、さればといつて新労組員が直ちに実力を用いて右ピケを排除し就労権を行使することが許されるものと速断することはできない。労働争議は組織と組織の対決であり、数と数との接触であるから、かりそめにも暴力が振われることがあればその波及するところは甚大にして図り知れない混乱を生じ、延いては社会不安を招来する虞れなきを保し難いから、不法なピケにより就労権が侵害された場合においても自らこれを排除せんとすれば著るしい混乱を招く危険の存する限りその排除は先ず以て国家機関の権限発動に俟つべきものというべく、本件の場合新労組員自らの手に許された方法はあくまで旧労組に対し不法なピケを解いて就労妨害を中止するよう平和的説得を試みる等権利行使の方法として許容される正当な限度にとどまるべきものといわねばならない。ところが、原判決挙示の証拠によれば新労組としては必ずしも当初から実力を以てピケを突破する意図でなかつたとしても、旧労組の基本的斗争方針や本件以前に発生した数次の暴力事件更には前叙の如きピケの態様からして新労組が強いてピケを排除して入構しようとすれば著るしい混乱を招く危険のあることを十分に予測し乍ら、敢て就労のため三川鉱仮東門前にいたり、いきなり青年行動隊員がピケ隊の前面に迫つて平和的説得を試みることなく相手が横に持つていた青竹を引張つて押合い、ピケ隊の後列の者から棒等で叩かれて一旦後退するや青年行動隊員等が用意していた前示目潰し二、三十個を一斉にピケ隊めがけて投けつけて再び同隊の前面に押寄せ、ピケ隊員が更に竹、棒等で叩きかかるや青年行動隊員も隠し持つていた二尺位の棒を振つて応戦し或は相手の得物を奪つて叩く等遂に双方入乱れて乱斗を演ずるにいたつた事実が認められるから、かかる混乱の全過程と態様に鑑みるとき青年行動隊と就労隊員がピケ隊員に加えた暴行は同隊員との斗争の渦中における一駒であることを否み難く、新労組員の就労権や身体に加えられた急迫不正の侵害に対する防衛行為とも、はたまた已むを得ざるにいでたる行為とは到底目し難いところでありまして被告人山隈は新労組員の就労のために相手の妨害を排除して入構する意思からではなく、右乱斗の最中ピケ隊からバンコ板を投付けられたのに立腹してこれを投返したものであり、被告人藪木は入構後道路上におけるピケ隊と就労隊の乱斗を見て興奮し硬石等を投下したものであつて、両名共右暴行に際し防衛意思を有しなかつたものと認めざるを得ないから、同被告人等の右所為が正当防衛の要件を欠くのは勿論、過剰防衛も成立するに由ないものである。

また、同被告人等の各暴行は前示の如きその態様とこれがなされた四囲の状況に照らせば、労働組合法第一条第一項の目的を達成するためにした正当な行為とは到底認められないから、刑法第三五条の適用がないのは勿論であり、不法な有形力の行使としてその違法性可罰性を具有するものといわねばならない。記録を精査しても原判決に所論の如き事実誤認は存しない。論旨は理由がない。

稲沢弁護人の控訴趣意第一点一、真鍋弁護人の控訴趣意第一点について。

よつて記録を精査し所論の起訴状記載の公訴事実と原判示事実を比較対照すれば、被告人北見、同野見山、同山本に対する訴因は同被告人等の数名と共同した暴行の時期が一部新労組員の三川鉱内入構後であるのに対し、原判決が認定した同被告人等の数人共同した暴行の時期が新労組員の入構前に属することは所論のとおりである。しかし、右訴因と判示事実は同被告人等の暴行の場所、相手方、態様、方法、月日、時間等すべて同一であつて、只被告人等が共同した数人の中に新労組員が加わつていたか否かの点とその時点が新労組員入構の前か後かの点が(しかも挙示の証拠によれば時間的には僅かに五分か一〇分の差異あるに過ぎない)相違しているだけであるから、両者が公訴事実の同一性に欠くるところのないのは勿論、かかる程度の相違は毫も被告人の防禦権の行使に実質的不利益を及ぼすものとは認められないので、訴因変更の手続を俟つまでもなく裁判所において自由に認定し得るものといわねばならない。原審の措置に所論の如き訴訟手続違背は存しない。論旨は理由がない。

稲沢弁護人の控訴趣意第一点二、真鍋弁護人の控訴趣意第二点其の一について。

しかし、原判決挙示にかかる被告人北見の検察官及び司法警察員に対する各供述調書、被告人山本の司法警察員に対する昭和三五年五月五日附供述調書によれば、同被告人等はいずれも旧労組員の態度に興奮しピケ隊めがけて木の棒や硬石等を投つけた旨自白していて、右事実を肯認するに十分である。尤も、被告人野見山についてはかかる自白は存しないが、原判決挙示の証拠就中証人中川渡の証言によれば同被告人が興奮してピケ隊めがけて石を投下した事実はこれを認めることができる。原判決に所論の如き違法はない。論旨は理由がない。

真鍋弁護人の控訴趣意第三点について。

よつて記録を精査し大城豊、馬場〓の検察官に対する各供述調書と同人等の原審証言とを比較対照すれば、三川鉱仮東門前においてピケ隊と就労隊とが乱斗しまた構内より石等が投下された状況につき前者は後者より遙かに詳細に表現されており、しかもその特信性も肯定されるから、原審が右各供述調書を刑事訴訟法第三二一条第一項二号に該当する書面として取調べたのは相当である。論旨は理由がない。

稲沢弁護人の控訴趣意第一点三、四、五、第二点、真鍋弁護人の控訴趣意第二点其の二、其の三、第四点、被告人北見、同野見山、同山本の各控訴趣意について。

しかし、原判決挙示の各証拠によれば被告人北見、同野見山、同山本は仮東門内の守衛詰所後方の盛り土をした塀際から道路上におけるピケ隊と就労隊の乱斗を望見していた際ピケ隊の乱暴な所為に立腹興奮し、(一)被告人北見は玉井紀明外数名のピケ隊員めがけて石を投下して暴行し、(二)被告人野見山は中川渡外数名のピケ隊員めがけて石を投下して暴行し、(三)被告人山本は玉井紀明外数名のピケ隊員めがけて拳大の石炭殻を投下して暴行した事実を肯認するに十分である。尤も、被告人北見は警察、検察庁、原審公判を通じ木の棒を投げたと自供して投石を否認しているけれども、右投石の事実は原審証人竹原光一、松本輝雄、玉井紀明、平野節男、金子市郎、竹下末男、金丸徳次、松本太、河崎幸一の各証言によりこれを肯認し得べく、被告人野見山は終始一貫して犯行を否認しているが、前示暴行は原審証人河野綱男、中川渡、斉木芳郎の各証言により認められ、また被告人山本は警察、検察庁において前示暴行を自白し、原審証人玉井紀明、金子市郎、松本太がいずれもこれを裏付ける証言をしておりその補強証拠に欠くるところはない。記録を精査しても右各証言の信用性並びに被告人山本の検察官及び司法警察員に対する各供述調書の任意性、信用性を疑うべき事情は存しない。尤も、同被告人が右取調当時微熱のあつたことは窺われるが、原審証人藤井秋次、新原邦彦の各証言によれば警察、検察庁の取調に際しては同被告人の身柄を拘束することなくまた強制誘導等を用いた形跡も認められない。

なおまた、同被告人等の前示各暴行はその方法、態様等に照らしてしかく軽微なものとはいい難く、その違法性、可罰性を阻却すべき事由は存しない。

そこで、同被告人等の右暴行に際し被告人等各自が共同すると共に他の数名と共同したものかどうかについて検討するに、前示各証拠によれば同被告人等が右暴行をなす際その附近にあつて被告人等と前後して道路上のピケ隊に物を投げていた者のあることは認められないことはないが、同被告人等各自が互に犯意を相通じまた他の数名とも互に犯意を通じてピケ隊に向つて物を投げた事実はこれを肯認すべき確証がなく、却つて同被告人等の司法警察員及び検察官に対する各供述調書、原審公判の供述によれば被告人等はいずれも道路上におけるピケ隊の乱暴な所為に興奮し咄嗟に思い思いに附近にあつた石や石炭殻を拾つてピケ隊めがけて投下したことが窺われるから、被告人等の各所為は単純暴行を以て論ずるのが相当といわねばならない。然るに、原審がこれを数人共同による暴行と認定したのは事実を誤認したものでこの誤は判決に影響を及ぼすこと明らかであるから、原判決は破棄を免れない。論旨は理由がある。

そこで、刑事訴訟法第三九七条第一項に則り各被告人に対する原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い更に判決する。

当裁判所が認定した事実及び引用の証拠は、原判示第二罪となるべき事実中一、二、三を次のとおり訂正する外、すべて原判示と同一であるから、これを引用する。

一、被告人山隈は前示仮東門前においてピケ隊と青年行動隊、就労隊があちこちで乱斗を始め混乱状態に陥つた最中、ピケ隊員からバンコ板を投付けられたため立腹し、「やるならやつてみろ」と言つて右バンコ板を附近にいた是沢市平他数名のピケ隊員目がけ投付けて暴行し、

二、被告人北見、同野見山、同山本は右仮東門内の守衛詰所後方の盛り土をした塀際において道路上のピケ隊と青年行動隊、就労隊の混乱状況を望見していた際ピケ隊の乱暴な所為に立腹興奮し

(1)  被告人北見は玉井紀明外数名のピケ隊員めがけ石を投下して暴行し、

(2)  被告人野見山は中川渡外数名のピケ隊員めがけ石を投下して暴行し、

(3)  被告人山本は玉井紀明外数名のピケ隊員めがけ拳大の石炭殻を投下して暴行し、

三、被告人藪木は右仮東門前においてピケ隊と青年行動隊、就労隊との間に乱斗が起りその機に乗じて就労隊員が三川鉱構内に入構した際、約一〇〇名の就労隊員に続いて入構し守衛詰所裏附近にいたり道路上のピケ隊と就労隊との混乱の状況を見て興奮し、塀際から道路上の高野市次外数名のピケ隊員めがけ硬石や湯呑茶碗大の石炭殻を二回位投下して暴行したものである。

法律に照らすに、被告人等の判示各所為は刑法第二〇八条罰金等臨時措置法第三条に当るから、いずれも所定刑中罰金刑を選択して被告人山隈を罰金五〇〇〇円に、その余の被告人四名を各罰金三〇〇〇円に処し、刑法第一八条により右罰金を完納し得ないときは金二五〇円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置すべく、原審並びに当審における訴訟費用は刑事訴訟法第一八一条第一項本文に従い主文末項のとおり被告人等に負担させることとする。

(裁判官 岡林次郎 中村荘十郎 臼杵勉)

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